コーラ白書
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中本 晋輔

 

先日「絶品バーガー」が食べたくなって久々にロッテリアに行ってみた。何気なくセットのドリンクにコーラを頼むと、「黒いペプシでよろしいですか?」と聞かれた。

よく話を聞くとロッテリアでは「青い」レギュラーのPEPSIは取り扱っておらず、コーラはゼロカロリーの「黒い」PEPSI NEX一択になっているとのこと。私は少なからずショックを受けた。

近年成長著しいダイエットコーラ市場を牽引するのが、このPEPSI NEXやCoca-Cola Zeroなどの「黒い」ゼロカロリーコーラである。これらのコーラは今や従来の「白い」ダイエットコーラを完全に駆逐し、独自ブランドとしてその存在感を増している。

今回はこのゼロカロリーコーラについて考えてみたい。なお今回の記事では上記の人工甘味料を用いた黒いパッケージのコーラを「ゼロカロリーコーラ」と呼び、従来のダイエットコーラと区別することにする。

 


 

より強く、よりコーラらしく

NEXやZEROが登場する以前から、メーカー各社はカロリーゼロのダイエットコーラを揃えていた。コカ・コーラ社のDiet CokeやCoca-Cola Light・ペプシのDiet PEPSIなどで、多白やシルバーをブランドカラーとした商品である。

近年登場したZeroやNEXなどは、従来のダイエットコーラと何が違うのか?カロリーや原材料表示を比べてもその差は分からない。

しかしCoca-Cola PlusとCoca-Cola ZEROを飲み比べると、ZEROのほうがよりコーラのフレーバーが強く、刺激的な味に仕上がっていることが分かる。またPEPSI NEXはフレーバーに加えレモン果汁を入れることで、味にインパクトを持たせている。

つまり、NEXやZeroなどの新製品は従来品に比べ、よりインパクトの効いた「強い味」になっているのだ。フレーバーや炭酸を強化することで、ダイエットコーラに欠けていた飲みごたえや刺激感を補ったコーラ、それがゼロカロリーコーラなのである。

 

黒いゼロカロリーコーラの先駆け・PEPSI MAX

このゼロカロリーコーラはどのように誕生したのだろうか。それを語るには少し時代をさかのぼる必要がある。

1957年にRC社が発売した世界初のダイエットコーラは、元々は糖尿病患者をターゲットに開発された商品だった。しかしこの画期的な商品は健康志向の高い消費者の心を掴み、健康ブームの高まる60年代アメリカで大ヒットとなった。

その後コーラメーカーから次々とダイエットコーラが発売されたが、それらにはすべてレギュラーコーラ(通常のコーラ)のサブブランドという点で共通していた。Coca-Colaはdiet Coke(註)、PEPSIはdiet PEPSIというように、あくまでメインブランドの一派生品という扱いだったのだ。必然的に中身もフレーバーや酸味料はオリジナルのままで、甘味料だけ人工甘味料に変更されたものになった。パッケージはレギュラーのデザインを踏襲しながら、赤を白に変更したものが多かった。

しかし砂糖やコーンシロップを人工甘味料に置き換えると、どうしてもボディ感が希薄になり飲みごたえがなくなってしまう。80〜90年代のダイエットコーラは薄っぺらくて物足りない印象を与えるものが多かった。また甘味料の後味が強く、お世辞にもあまり美味しくなかった。

このダイエットコーラ特有の「物足りなさ」「甘味料の後味」をフレーバーや酸味料で補うことを考えたのがペプシであった。

ペプシは人工甘味料の弱点を補う「強い」フレーバーのコーラを開発、94年に「PEPSI MAX」の名称で商品化した。キャッチフレーズはMAXIMUM TASTE・NO SUGAR。謳い文句のとおりフレーバーを強化して、よりコーラの刺激感を高めた製品であった。パッケージには白を使わず、ペプシのブランドカラーをさらに濃くしたディープブルーが使われた。

ペプシはこの新しいダイエットコーラをまず欧州戦線に投入した。MAXはイギリスを皮切りに、数年のうちに西ヨーロッパ主要国を席巻した。欧州戦線ではPEPSI MAXとCoca-Cola Lightが対峙するという、北米と異なる状況が続いた(註1)。

一部のアジアやオーストラリアではMAXとdiet PEPSI が平行して販売された。Diet は健康志向の高い人や女性向け、MAXは若者向けという棲み分けマーケティングが進み2つのダイエットコーラが市場に定着。豪州ではスーパーのPBコーラにdietタイプとMAXタイプが作られるほどだった。最近では中国市場にも上陸している。

MAXが各国に広がるにつれ、パッケージのデザインに変化が表れた。発売当初はディープブルーがブランドカラーだったが、後に黒をアクセントに入れたより訴求力のあるデザインが採用された。時代とともに黒の占める割合は大きくなる傾向にあり、最近のPEPSI MAXはほぼ黒がメインになっている。こうしてゼロカロリーコーラのパッケージ=黒のイメージが確立したと考えられる。

 

左から97年イギリス、2000年フランス、2007年マレーシアのMAX

 

グローバルではダイエットペプシに替わるスタンダードとなりつつあるPEPSI MAXだが、定着しなかった地域もある。その代表が日本と北米である。

日本で95年に発売されたPEPSI MXはMAXと同じコンセプトと言われる製品だ。TVCFを展開し華々しくデビューしたものの、人工甘味料の味に対する抵抗感の根強い当時の日本市場には受け入れられず、1シーズンで姿を消した。

カナダで94から8年間販売されたPEPSI MAXは、砂糖と人工甘味料を混合したローカロリーコーラという位置づけだった(コカコーラのC2と同じコンセプト)。またアメリカでは2008年10月にようやくPEPSI MAXが登場したが、これはエナジードリンクタイプのダイエットコーラ diet PEPSI MAXをリネームしたものである。

このようにカナダもアメリカもPEPSI MAXという名称の商品をリリースしているが、そのコンセプトは他地域とは異なる。これは既存のdiet PEPSIの人気の高い北米市場ではMAXにより明確な差別化が求められた結果と考えられる。

 

コカ・コーラの反撃

一方コカ・コーラはPEPSI MAX登場後もdiet Cokeをブラッシュアップすることで対抗してきた。同社はそのプライドから、ペプシに先を越されてしまった製品の追従にはかなりの時間を要するのが常なのだ。

しかし北米でレギュラーコーラの消費が頭打ちになり消費者の嗜好がダイエット系飲料にシフトする中で、2005年にゼロカロリーコーラ“Coca-Cola Zero”を発表した(註2)。

しかし発売当初は商品コンセプトをはっきりと打ち出しておらず、パッケージも白をベース+黒のダイナミックリボンというdiet cokeの延長のような地味なグラフィックだった。従来製品との差を理解する消費者は少なく、大きな話題にはならなかった。

初代Zero(左)とリニューアル後(右)

その翌年、コカ・コーラはZeroのテコ入れに着手。プロダクトカラーを黒に統一し、グラフィックは黒字に赤でロゴを表記したインパクトの強いものに変更された。キャッチコピーは”Great Coke Taste, Zero Calories”。健康面よりもスタイリッシュ感を全面に押し出し、Diet Cokeの味に不満のある人々や男性消費者をターゲットにマーケティングを展開した。

この作戦が奏功し、Coca-Cola Zeroはグローバルで大ヒット。2007年には4億5千万本を売り上コカ・コーラ社の売り上げに大きく貢献した。翌08年には世界100カ国で販売されるまでになり、「この20年で最も成功したコカ・コーラの新製品」と称された。

現在北米ではZEROはCoca-Colaから独立したプラットフォームに成長。Coca-Cola Cherry ZeroやCoca-Cola Vanilla Zero等の派生商品まで登場している。

 

サントリーの傑作 PEPSI NEX

初代NEX(左)とリニューアル後(右)

Coca-Cola ZeroとPEPSI MAXが世界のダイエット市場で鍔迫り合いを演じる中、日本市場だけは状況が異なった。黒いゼロカロリーコーラで先手を取ったのはサントリーのオリジナルペプシであった。

同社は06年に米ペプシコと共同で開発したダイエットコーラ「PEPSI NEX」を既に上市していた。これはレモン風味のダイエットコーラdiet PEPSI Twistの改良版的な存在で、コンセプトは「おいしさとカロリーゼロを両立した新しいスタンダード」。パッケージデザインも従来のものを踏襲し、銀と白を使ったいかにもダイエットコーラ的なものだった。

しかし翌年、海外でCoca-Cola Zeroが市場を席巻する中でサントリーはNEXのリニューアルに着手した。フォーミュレーションを変更する一方でプロダクトカラーを銀から黒に変更。この新生NEXは日本初の「黒いゼロカロリーコーラ」としてライバルに先駆けて3月27日に発売された。

サントリーはNEXを日本におけるPEPSIブランドのフラッグシップと位置づけ、積極的なマーケティングを展開した。同社のウェブサイトのトップはPEPSIからPEPSI NEXに替わり、人気芸能人を使ったスタイリッシュなCMやスヌーピーのオンパックキャンペーンなどを展開した。その一方で従来のPEPSIのCMやオンパックなどを取りやめ、diet PEPSIの販売を2リットルPETのみに絞るなど徹底した選択と集中を行った。

結果NEXは07年度に目標を大きく上回る1300万ケースの販売を達成。08年にも20%を超える成長を達成し、コーラ市場そのものを牽引するほどであった。マーケティングのサントリーの面目躍如である。

出遅れた日本のZERO

一方の日本コカ・コーラはサントリーのNEXから3ヶ月遅れの07年6月4日、Coca-Cola Zeroを発売した。男性をターゲットにしたキャンペーンのキャッチコピーは「日本の男よ、ためらうな」。

この初代Coca-Cola Zeroは海外に比べ独自色が強かった。パッケージのロゴは白抜きで、赤文字の海外品にくらべておとなしいグラフィックだった。またグローバルのキャッチコピー”Great Taste, Zero Calorie”を使わず、替わりに”Full taste. zero sugar. Sharp”を採用するなどオリジナル路線を貫いた。

CMには「決断力のあるシャープな男」の象徴としてZERO侍という新キャラクターが登場した。これはファッションモデルのTYONJIが扮する、侍の頭にチョンマゲに見立てた500mlPETボトルが乗った実写キャラクター。電通が手掛けたCMながらお世辞にもカッコいいとは言い難く、なによりその不明瞭な訴求ポイントにためらってしまった日本の男も多かったことだろう。

このように日本における初期のCoca-Cola Zeroは、同じ時期のグローバルコンセプトとのズレが大きかった。これは国内のダイエットコーラ市場はこれまで独自の進化を遂げた経緯があり、Zeroの導入に際してそのバイアスがかかったことは想像に難くない。

その結果Zeroはそのマーケティング戦略の拙さから、ライバル水を開けられる結果となった。08年春のペプシの資料では好意度、飲用意向ともにNEXの後塵を拝している。

この急成長分野で出遅れた日本コカ・コーラは09年1月、国内におけるゼロカロリーコーラの販売戦略を大幅に刷新した。

Coca-Cola Zeroはブランドイメージをよりスタイリッシュに刷新し、男性向けだけでなくより幅広い消費者をターゲットにした商品にリニューアル。ブランド価値を「ワイルドでありながらヘルシーなライフスタイルを楽しむこと」と再定義し、安室奈美恵さんをイメージキャラクターに起用しイメージの一新を図った。独自色の強かったパッケージもグローバルデザインに統一され、キャッチコピーは「great taste zero sugar」に変更された。

同時にフォーミュレーションも変更され、これまで人工甘味料を使ったコーラの常識であった保存料をゼロにすことに成功。食の安全への関心が高まる中でライバルPEPSI NEXとの差別化を打ち出した。保存料フリーを達成したCoca-Cola Zeroは世界初である。

日本の初代Zero(左)と、2009年2月リニューアル後(右)

一方でCoca-Cola Light 〜 no calorie Coca-Colaの流れを汲むダイエットコーラブランドとして、新たにCoca-Cola Plusブランドを立ち上げた。これはゼロカロリーに加え栄養素をプラスし、「美容や健康に敏感な20〜30代の女性」をターゲットにしたコーラブランド。これまでビタミンCやカテキン・食物繊維入りなどがリリースされており、訴求点を健康と美容に特化することでZeroとの差別化を図っている。

日本コカ・コーラは現在Coca-Cola Zeroをより強くプロモートしており、Plusはやや影が薄い。コンビニやファストフードではオリジナルとZeroの2種類のみが扱われるケースが多く、コカ・コーラ製品でもダイエット=黒のイメージが強くなりつつある。

 

追従する黒いゼロカロリーコーラ

これらの新たなゼロカロリーコーラにより国内のコーラ市場は大いに活性化した。サントリーが09年春にリリースした資料によると長く縮小の続いた国内コーラ市場は07年から拡大に転じ、そのうち3割がゼロカロリーまたはダイエットコーラが占めるとしている。キリンのニュースリリースでもゼロカロリーコーラの市場比率を3割としているので、これは信憑性のある数字と考えていいだろう。

コーラの3本に1本がゼロカロリーという空前のブームに対し、これまで静観してきた飲料メーカーも次々と市場に参入した。

ダイドードリンコは09年春にZERO SLIM COLAを発売した。レモン果汁を使ったフォーミュレーションや黒とシルバーのスタイリッシュなグラフィックなど、NEXを強く意思した製品である。ダイドーはこれまでMistio Colaなどレギュラーコーラを発売したが、ダイエットコーラは本品が初めてとなる。

国産の低価格飲料メーカーとして知られる富永食品は戸居留地ブランドからLAS COLA ZEROをリリースした。黒と金をベースカラーにしたゴージャスなパッケージと、同社のLAD diet Colaに比べてインパクトのあるフレーバーが特徴だ。またプライベートブランドでも模倣商品が開発され、イオンのゼロカロリーコーラやディープライスのゼロコーラなどが登場した。

黒いダイエットコーラブームはプレミクス系アルコール飲料(註4)にも飛び火した。キリンは好調のコーラテイスト飲料「COLA SHOCK」に新たに糖類ゼロの新製品「COLA SHOCK ZERO」を追加した。このプロダクトカラーにも黒が使われており、いかにゼロカロリーコーラ=黒のイメージが定着しているかを伺わせる。

富永食品のLas cola Zero(左)とキリンのCOLA SHOCK ZERO(右)

 



「よりコーラらしいゼロカロリーのコーラが飲みたい」という消費者の要求は、健康志向の高まりと共により大きくなりつつある。それに答えるための新時代ダイエットコーラを象徴するのが黒というブランドカラーなのである。

そしてその存在はレギュラーコーラ中心だったコーラ市場そのものを変えようとしている。

(註1) 北米ではdiet Coke vs diet PEPSIだった。ちなみにCoca-Cola Lightは欧州のサッカリン規制のために作られたブランドで、現在はdiet Cokeと同じ製品として扱われている。
(註2) コカ・コーラ社の公式サイトより引用。Wikipediaには04年発売となっている。
(註3) 現在は北米ではReal Coke Taste, Zero Calorieが使用されている。
(註4) アルコール飲料とコーラなどをあらかじめ混ぜた状態(pre-mix)にした商品。キリンのプレスリリースではRTD(ready to drink)飲料という表現が使われている。

【参考文献】

* SUNTORY 新製品&キャンペーンのご案内 (2009春)
* 日本コカ・コーラ|ニュースリリース 2007/06/04
* 日本コカ・コーラ|ニュースリリース 2009/01/30
* 日本コカ・コーラ|ニュースリリース 2009/02/08
* SUNTORY ニュースリリース No.9340 (2006.1.19)
* SUNTORY ニュースリリース No.9676 (2007.1.23) 
* KIRIN_ニュースリリース_2009.8.19
* Coca-Cola Zero -Wikipedia - (英語版) 
* Pepsi Max -Wikipedia (英語版)